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甘すぎる夜 4

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-07-27 21:10:01

 話しかけてくれた先輩は、私のことを評価してくれ、いろんなアドバイスをくれた人だ。批判する人だけじゃないと、なんだか安心した。

 海斗は会議がまだ終わっていないのかな。

 フロアから出ようとすると

「先輩、別れてすぐに部長と付き合うなんて、どういう神経しているんですか?」

 吉田さんが突っかかってきた。

「吉田さんの方こそ、私と大和が付き合っているって知っているのに、大和に手を出したのはあなたじゃない。大和のことが好きだったら、浮気なんてことしていないで、もっと早く正式に付き合うように説得すれば良かったのよ。婚約中で不貞行為で浮気とかすると、慰謝料とか取れるんだよ。知ってた?」

 彼女の嫌がらせにいつまでも屈したくはない。

「なんですか、それ。大和さんを盗られたからって負け惜しみですか?」

 彼女も眉間にシワを寄せ、言い返してきた。

「結果、別れることになったけど、逆に吉田さんには感謝してる。大和と別れるキッカケを作ってくれたから。今は龍ヶ崎部長っていう素晴らしい人と付き合えて、私、とても幸せなの。だから、ありがとうね」

 じゃあと軽く頭を下げ、通り過ぎようとした。

「先輩は部長にだってすぐにフラれますよ。何の取り柄もない人が、部長みたいなスペックの人とずっと付き合えるわけないですし」

 言い方に棘がある。

 私には取り柄がないかもしれない。

 でも、あくまで偽装だけれど、こんな私でも良いって言ってくれたのは海斗だから――。

「終業時間が過ぎているからって、こんなところで私情を挟み、大きな声を出さないでください。どうして吉田さんにそんなことを言われなきゃいけないんですか」

 ふと声の先を見ると海斗が立っていた。

 会議、終わったんだ。

 「龍ヶ崎部長……」

 吉田さんも突然の部長の登場に驚いていた。

「僕は昔から一方的に雨宮さんに好意があったんです。何度彼女に告白したことか。何の取り柄もない、彼女のことを知らない人が、そんなことをよく言えますね。自分はどうなんですか?長所で溢れている、そんなことをわざわざ伝えたいんですか?」

「そんなつもりじゃ……」

「業務態度を見れば、比較されて恥かしいのは、あなたの方だと思いますが」

 冷たい眼、私に話している時とは違う彼に怖いとさえ感じてしまった。

「……っ!」

 彼女は言い返すこともせず、その場から走り去った。

「あの、部
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